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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)40号 判決

アメリカ合衆国

イリノイ州 ディアフィールド ワンバックスター パークウェイ

原告

バックスター インターナショナル インコーポレーテッド

代表者

オラブ バーグヘイム

訴訟代理人弁護士

大場正成

鈴木修

同弁理士

浅村皓

小池恒明

山本貴和

岩井秀生

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

山川雅也

木村良雄

幸長保次郎

伊藤三男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者が求めた判決

1  原告

特許庁が、平成4年審判第17667号事件について、平成5年9月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1983年4月29日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和59年4月27日、名称を「圧力変換器アセンブリー」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭59-86046号)が、平成4年5月20日に拒絶査定を受けたので、平成4年9月21日、これに対し不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を、平成4年審判第17667号事件として審理したうえ、平成5年9月24日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月1日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨(特許請求の範囲第1項の記載のとおり)

流体の圧力を監視するための圧力変換器アセンブリーにおいて、

チャンバーを画成しそして該チャンバーと流体の流れで連絡する入口部分と出口部分とを有するハウジング、

該ハウジング内に分離された第一チャンバーおよび第二チャンバーを形成し、前記第一チャンバーが入口部分および出口部分と流体の流れで連絡するように前記チャンバー内部で前記ハウジングに対してシールされた絶縁本体、

該絶縁本体に固定されそして前記第一チャンバー内の流体の流体圧力を測定しかつ電気インパルスに変換するために前記第一チャンバーに露出した圧力変換器装置、

該圧力変換器装置を覆い、電気的に非伝導性であり、前記圧力変換器装置を前記第一チャンバー中に存在する流体から隔離しかつ流体圧力を前記圧力変換器装置に伝える流体圧応答媒体、

前記第一チャンバーにおける前記圧力変換器装置と前記第二チャンバーとの間に電気的連絡を与えるため前記圧力変換器装置へ接続されそして絶縁本体を通って第二チャンバーへと達する電気伝導装置、および

該電気伝導装置と相互連絡できる電気配線に前記ハウジング上で連結場所を設けるための前記ハウジング上の結合装置、

を包含する圧力変換器アセンブリー。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、実願昭50-172288号(実開昭52-84869号)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用例発明」という。)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることはできないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、引用例の記載事項の認定及び本願発明と引用例発明との一致点及び相違点の認定は認めるが、各相違点の判断は争う。

審決は、各相違点の判断をいずれも誤り(取消事由1~3)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)

審決は、相違点(1)につき、「仕切体をハウジングに対してシールされた状態で固定し、圧力変換器装置を流体室に露出させて前記仕切体に固定すると共に該圧力変換器装置を流体圧応答媒体によって覆うことは、当該技術分野において本願出願前周知の技術・・・である」(審決書7頁12行~8頁1行)としているが、誤りである。

本願発明は、絶縁本体をハウジングに対してシールし、その絶縁本体に圧力変換器装置を第一チャンバーに露出した状態で固定し、その上で当該圧力変換器装置を流体圧応答媒体で覆うという構成をとるものである。

審決は、上記周知技術の認定において、本願発明の絶縁本体を仕切体に、第一チャンバーを流体室に、それぞれ対応させている。しかしながら、審決が周知技術を認定した特開昭52-138981号公報(甲第6号証)、実願昭52-159024号(実開昭54-86965号)のマイクロフィルム(甲第7号証)、特開昭52-87076号公報(同第8号証)、特開昭54-29693号公報(同第9号証)には、圧力変換器装置を流体室に露出させて仕切体に対して固定する技術は開示されていない。

上記公報類(甲第6~9号証)が開示する圧力変換器装置は、圧力を検知し電気的出力を発生するシリコンダイアフラムとこれを覆う圧力伝達のための液体及び当該液体を覆うシールダイアフラムとからなる構成であることで基本的に共通する。これを、特開昭52-138981号公報(甲第6号証)で説明すると、シリコンダイアフラム46が固定された絶縁板701は、液体705が流出しないように密封する役割を有するものであり、チャンバーとチャンバーとを区画する仕切板ではない。また、シリコンダイアフラム46自体は独立して基板63には固定されていない。固定されているのはユニットとしての小型セル70である。したがって、上記公報記載のものでは、「圧力変換器装置を仕切板に固定する」ことにはならず、「圧力変換器装置を流体室に露出させ」ていない。

また、本願発明において、流体圧応答媒体は、圧力変換器装置を覆い、電気的に非伝導性であり、圧力変換器装置を流体から隔離し、流体圧力を圧力変換器装置に伝える機能の全てを具有するものでなければならないが、上記公報類が開示する圧力変換器装置には、本願発明における流体圧応答媒体が有すべき機能のすべてを具有した部材は存在しない。例えば、シールダイアフラム703とシリコンダイアフラム46との間には液体705が介在し、流体圧力をシリコンダイアフラム46に伝えているが、シリコンダイアフラム46を流体から隔離するのはシールダイアフラム703であって液体705ではないから、液体705もシールダイアフラム703も本願発明の流体圧応答媒体が備えるべき機能の全てを具有していないので、いずれも本願発明の流体圧応答媒体に相当しない。

したがって、審決の上記の周知技術の認定は誤りであるから、これを前提とする相違点(1)についての判断は誤りである。

仮に、上記周知技術の認定に誤りがないとしても、引用例発明に周知技術を適用して、その仕切板を器体に対してシールされた状態で固定し、圧力信号発信機を流体室に露出させて前記仕切板に固定すると共に該圧力信号発信機を感圧板によって覆う構成にする技術的必然性はない。すなわち、引用例発明では、仕切板で区切り、流体と接触することのない部屋に圧力信号発信機を置く構成を採用することにより、感圧板、連結棒、カンチレバーを介して圧力を圧力信号発信機へ導くという複雑な構成(この意味では、本願発明の圧力変換器装置に相当するものは圧力信号発信機に感圧板、連結棒、カンチレバーを加えたものでなければならない。)と引換えに、流体と非接触であるという長所を得たのであるから、圧力信号発信機を流体室に置くことは、上記長所を捨てることになり、上記選択を無意味にする改造である。当業者がこのような構造の変更をするはずがない。

さらに、引用例には、感圧板の構造については、その第2図に僅かに波打った形状が記載されているだけで詳細な記載はなく、圧力信号発信機と液体との接触を感圧板を使って行なえるか否かについての開示はないから、引用例発明の感圧板は流体と圧力信号発信機との接触を妨げる機能を有しないのに対し、本願発明の流体圧応答媒体は流体と圧力変換器装置との接触を妨げる機能を有する点で異なるものであって、圧力信号発信機と液体との接触を避けるという目的を感圧板で圧力信号発信機を覆うことにより達成することが当業者が容易に想到し得たとは到底いえない。

被告は、引用例発明の「(圧力変換器装置に相当する)圧力信号発信機を(第一チャンバーに相当する)流体室に露出させる」構成とすることは、圧力変換器装置の設置の態様による長所・短所を勘案して、当業者がなす単なる選択事項にすぎないと主張するが、「(圧力変換器装置に相当する)圧力信号発信機を(第一チャンバーに相当する)流体室に露出させる」構成を選択した場合と、「圧力信号発信機をそのまま流体室の外に設置する」構成を選択した場合とでは、そもそも基本的な発想の原点を異にし、その結果、異なる技術的課題を有することとなるものであるから、一方の課題解決のために他方へ改良技術を適用するということは基本的には考えられないし、技術的課題の解決手段として、発想の原点を変えるような選択をすることなど考えられない。

したがって、審決の相違点(1)についての判断は誤りである。

2  取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)

審決は、相違点(2)につき、「仕切体及び流体圧応答媒体のように流体と接触する部材を通じて、流体と圧力変換器装置との間で電気伝導する場合、流体、圧力変換器装置等への影響を考えて電気的に絶縁することは、当業者であれば当然考慮すべきことであるから、引用例における仕切板及び感圧板を電気的な絶縁材で構成することは、当業者が必要に応じて適宜なし得た設計的事項にすぎない。」(審決書8頁9~16行)としているが、誤りである。

引用例発明において、圧力信号発信機を流体室から仕切板で仕切られた部屋に置いたのは、圧力信号発信機と液体との接触を避けるためである。しかも、引用例には、電気的絶縁の問題は一切記載されていない。このことは、引用例発明の構造であれば、電気的伝導の問題は生じないからであると解される。このように、電気的伝導の問題は生じない構造の引用例発明をわざわざ電気的伝導が問題となるような構造に変更することを当業者が行なうとは到底考えられない。

したがって、引用例発明の圧力信号発信機を流体室に露出させるという改悪を実施した上で、これに対する処置として仕切板と感圧板を電気的絶縁材料で構成することは当業者が容易に想到できるものではない。

なお、引用例発明の用途は人工透析液の圧力を検出するものであるところ、人工透析液は透析中も血液と直接接触することはなく、体内に導かれることもないから、電気的非伝導性についての配慮は不要であるので、絶縁の必要のないところに、仕切板や感圧板を絶縁体で構成するなどという発想は起こりえない。

仮に、当業者が引用例発明の圧力信号発信機に対して絶縁を考えたとしても、絶縁性を得る方法は一つに限られるものではない。

したがって、審決が、本願発明における絶縁を得る具体的構成すなわち絶縁本体と電気的に非伝導性の流体圧応答媒体という構成を採用することが、絶縁を得るための可能な他の具体的構成との比較において、当業者が容易に推考し得るか否かを判断することなく、上記のとおり、「引用例における仕切板及び感圧板を電気的な絶縁材で構成することは、当業者が必要に応じて適宜なし得た設計的事項にすぎない。」と判断したことは誤りである。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)

審決は、相違点(3)につき、「機器本体部と配線部(コード)とを分離するために、機器本体部側に金属ピンのような電気伝導装置、及び該電気伝導装置と配線部の電気配線とが相互連絡できるように配線部のコネクターを機器本体部に保持するための結合装置を設けることは、例示するまでもなく電気機器において本願出願前周知の技術であるから、引用例に記載の圧力検出器において、その電線を直接圧力信号発信機へ接続することに代えて、圧力信号発信機へ接続される電気伝導装置と、該電気伝導装置と相互連絡できる電線に覆蓋上で連結場所を設けるための覆蓋上の結合装置とを用いて、電線を圧力信号発信機へ接続するようになし、その際に、圧力信号発信機の位置に応じて該圧力信号発信機へ接続される電気伝導装置を仕切板を通って第二チャンバーへ達するようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。」(審決書8頁18行~9頁14行)としているが、誤りである。

審決認定の上記周知技術が一般的には周知技術に属することは認める。しかし、本願発明のように、ハウジング上に結合装置を設け、電気配線を直接圧力変換器装置へ接続せずに、圧力変換器装置には電気伝導装置を接続し、この電気伝導装置と電気配線を結合装置により接続させる構成としたものは、ハウジングと電気配線を分離できる利点を有するが、構造が複雑であり、引用例発明と比較して製造が困難であり、コストが高いものになることが容易に理解できるから、相当の技術的必要性を認識しない限り、当業者が本願発明のような上記構成を採用することは困難である。

本願発明が上記構成を採用したのは、もっぱら、圧力変換器アセンブリーを使い捨て可能とするためである。これに対して、引用例には、圧力検出器本体と電気配線を分離可能とする構成の記載も示唆もない。引用例発明の使用目的は人工腎臓装置の血液透析器の透析液の圧力を検出することであるから、患者の血液自体と直接接触することはなく、患者毎に洗浄する必要がないので、引用例発明は圧力検出器を使い捨てにするとの技術的課題は有していない。したがって、引用例発明の圧力信号発信機に直接電気配線を接続するという製造が容易でコストの安い構成を、わざわざ製造が困難でかつコストのかかる構造に変えることが、当業者にとって容易に想到し得たことであるはずはない。

被告は、「使い捨て」のために使い捨てされる機器と器体とを分離可能とする技術思想は周知の技術思想であると主張するが、審決が認定していない周知技術の主張を許すことは、特許庁の判断を欠いた事項について、裁判所の審理を求めることになり許されない。

第4  被告の反論

審決の認定及び判断に誤りはなく、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

審決は、「仕切体をハウジングに対してシールされた状態で固定し、圧力変換器装置を流体室に露出させて前記仕切体に固定すると共に該圧力変換器装置を流体圧応答媒体によって覆うこと」(審決書7頁12~15行)が当該技術分野で本願出願前周知の技術であると認定したものである。

原告は、本願発明は、絶縁本体をハウジングに対してシールし、その絶縁本体に圧力変換器装置を第一チャンバーに露出した状態で固定し、その上で当該圧力変換器装置を流体圧応答媒体で覆うという構成をとるものであると主張するが、本願明細書(甲第2~第4号証)の「第一チヤンバー内に圧力センサー、例えばケイ素圧力センサー32が位置して、圧力変換器装置をなしている。」(甲第2号証明細書25頁1~2行、甲第3号証補正の内容(13))との記載と、本願発明が物の発明であることを考慮すれば、本願発明の要旨に示す「前記第一チャンバーに露出した圧力変換器装置」は、「前記第一チャンバー内に位置した圧力変換器装置」と解すべきである。

そうすれば、審決摘示の特開昭52-138981号公報その他の公報類(甲第6~第9号証)に審決認定の周知技術が開示されていることは明らかである。特開昭52-138981号公報(甲第6号証)において、小型セル70がユニットであっても、小型セル70が基板63に固着されて、最終的にできあがったものを考えてみると、シリコンダイアフラム46は、やはり仕切体に対応する基板63に固定されていることには変わりはなく、審決の周知技術の認定に誤りはない。

原告は、引用例発明において、圧力信号発信機を流体室に持ち込む技術的な意義はないと主張するが、圧力信号発信機を流体室に持ち込むか否かは、圧力変換器装置の設置の態様の長所・短所を勘案して、当業者がなす単なる選択事項にすぎない。

さらに、原告は、圧力信号発信機と液体との接触を避けるという目的を感圧板で圧力信号発信機を覆うことにより達成することが当業者が容易に想到できたとは到底いえないと主張するが、圧力信号発信機と流体との接触を避ける必要がある場合に、流体の圧力を圧力信号発信機に伝えることができる何らかの手段すなわち流体圧応答媒体(感圧板)で圧力信号発信機を覆うことは当然のことであり、このことは技術常識であるといって過言ではない。

したがって、審決の相違点(1)についての判断に誤りはない。

2  取消事由2について

前示のとおり、引用例発明の圧力信号発信機を流体室内に位置させる構成とすることは、圧力変換器装置の設置の態様による長所・短所を勘案して、当業者がなす単なる選択事項にすぎない。そして、圧力信号発信機を流体室内に位置させれば、一般的に電気的な伝導の問題が生ずるおそれがあるから、絶縁に対する配慮をすることは当然のことであり、したがって、仕切体に相当する仕切板と流体圧応答媒体に相当する感圧板を電気的絶縁材で構成することは、当業者の常識というべきである。

引用例発明の用途が人工透析液の圧力を検出するものであり、人工透析液が透析中も血液と直接接触することはなく、体内に導かれることもないとしても、このことから直ちに、原告主張のように電気的非伝導性についての配慮は不要であり絶縁を全く考えなくてもよいということにはならない。

また、本願発明の絶縁を得るための具体的な構成は、絶縁本体及び流体圧応答媒体を電気的な絶縁材とすることであるから、審決が判断すべきは、引用例発明における仕切板及び感圧板に代えて絶縁本体と電気的に非伝導性の流体圧応答媒体とすることの容易性であって、原告主張のように絶縁を得るための可能な他の構成と比較して容易であることを判断すべきであるということにはならない。

したがって、審決の相違点(2)についての判断に誤りはない。

3  取消事由3について

引用例(甲第5号証)には、「使い捨て」の必要性、利便性を十分認識した上で、「使い捨て」のために使い捨てされる機器と器体とを分離可能とする技術思想が示されている(同号証3頁15~18行、7頁10~11行)し、このような技術思想は、特開昭55-101041号公報(乙第1号証)、実願昭56-48120号(実開昭57-160647号)のマイクロフィルム(同第2号証)、実公昭56-22885号公報(同第3号証)にも示されているとおり、周知の技術思想である。

そして、機器を使い捨てにしなければならないという要請が生じた場合、機器とこれに接続されている電気配線を分離可能にするという発想は極めて当然なものである。また、使い捨てにする機器を何にするかは、機器の用途や価格、そして機器の再使用のための処理の煩瑣さ等から自ずと決まることであり、使い捨てにする機器を「圧力検出器」とすることに困難性は見出せないから、引用例発明の圧力検出器において、その電線を直接圧力信号発信器へ接続することに代えて電気伝導装置と結合装置とを用いて、電線を圧力信号発信器へ接続することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

したがって、審決の相違点(3)についての判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立は、すべて当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点(1)についての判断の誤り)について

審決の本願発明と引用例発明との一致点及び各相違点の認定は、当事者間に争いはない。

これによれば、審決は、本願発明における「ハウジング内に分離された第一チャンバーおよび第二チャンバーを形成し、前記第一チャンバーが入口部分および出口部分と流体の流れで連絡するように前記チャンバー内部で前記ハウジングに対してシールされた絶縁本体」につき、この絶縁本体の「ハウジング内に分離された第一チャンバーおよび第二チャンバーを形成」する機能に着目し、この点で、本願発明の絶縁体は引用例発明の仕切板に対応するものとして、上記一致点の認定において、これを「仕切体」と表現し、本願発明の絶縁本体のシール機能及び絶縁機能の点については、引用例発明の仕切板と相違するとして、相違点(1)、(2)において、この点を摘示していることが明らかである。

そして、審決は、相違点(1)に係る本願発明の構成すなわち「仕切体がハウジングに対してシールされ、圧力変換器装置が第一チャンバーに露出した状態で前記仕切体に固定されると共に該圧力変換器装置が流体圧応答媒体によって覆われている」(審決書6頁8~12行)点につき、この点は、「当該技術分野において本願出願前周知の技術・・・である」(審決書7頁15行~8頁1行)とし、この周知技術を示すものとして特開昭52-138981号公報その他の公報類(甲第6~第9号証)を挙げている。

この特開昭52-138981号公報(甲第6号証)には、圧力検出器に係る発明が開示され、その発明の詳細な説明の項には、「第10図において、セル60には第1及び第2の圧力室61、62が基板63の上下面にカバー64、65を固着して形成されている。カバー64には被測定流体を導入する圧力導入口66が形成され・・・カバー65には大気圧を導入するための圧力導入口68が形成され・・・基板63の上面即ち第1の圧力室61には圧力を検出するためのダイヤフラムを内部に含む複数個の小型セル70、71、72が配設され、各小型セル70、71、72により導出された圧力導入管73が基板63より第2の圧力室61側に臨んでいる。」(同号証5頁右上欄13行~左下欄8行)、「小型セル70を例にとつて説明すると、第11図に示す様に絶縁板701の周囲部に固定部702が固着され、この固定部702の上面にはシールダイヤフラム703が上下動自在に固着されている。絶縁板701の上面にはシリコンダイヤフラム46が気密に固着され、ダイヤフラム46の上部には封液部704が形成されている。封液部704はシールダイヤフラム703の圧力による変位をシリコンダイヤフラム46に伝達するため設けられ、圧力伝達のための液体705が密封されている。シリコンダイヤフラム46の空洞部706は、絶縁板701に固着した圧力導入管69により大気に開放されている。従つて、シリコンダイヤフラム46には、被測定流体のゲージ圧の検出が可能である。」(同5頁左下欄9行~右下欄3行)との記載があり、この記載と図面第10、第11図とによれば、本願発明の「ハウジング」に相当すると認められるセル60(以下、かっこ内は本願発明の相当する部材を示す。)内に分離された第1及び第2の圧力室(第一及び第二チャンバー)とが基板63によって仕切られ、互いにシールされており、小型セルが基板63に固定されて第1の圧力室内に配置され、各小型セル70、71、72内には、シリコンダイアフラム46(圧力変換器装置)が絶縁板701に固定され、小型セルの上面はシールダイアフラム703で覆われており、ダイアフラム46の上部には封液部704が形成され、封液部704はシールダイアフラム703の圧力による変位をシリコンダイアフラム46に伝達するための液体705が密封されている圧力検出器が開示されていると認められる。

このように、基板63はセル60に対してシールされ、第1及び第2の圧力室を仕切っているのであるから、これが「仕切体」に相当することは明らかであり、シリコンダイアフラム46(圧力変換器装置)は小型セルの絶縁板701に固定され、ユニットとしての小型セルが基板63に固定されて第1の圧力室(第一チャンバー)に配置されているのであるから、シリコンダイアフラム46(圧力変換器装置)は、小型セルを介して基板63に固定されているということができる。原告は、シリコンダイアフラム46(圧力変換器装置)自体は独立して基板63に固定されていないと主張するが、直接に基板63に固定されようと小型セルを介して固定されようと、圧力変換器装置の作用が異なるものでないことは明らかであり、これを問題とする理由はない。

そして、小型セルの上面に設けられたシールダイアフラム703が、第1の圧力室(第一チャンバー)に導入される被測定流体からシリコンダイアフラム46(圧力変換器装置)を隔離する機能を有し、封液部704内の液体705が流体圧力をシリコンダイアフラム46(圧力変換器装置)に伝える機能を有することは明らかであるから、シールダイアフラム703と液体705とは、一体になって、本願発明の「流体圧応答媒体」に相当すると認められる。

本願発明の要旨によれば、本願発明において、圧力変換器装置は、「第一チャンバーに露出した」ものとされながら、続いて、「該圧力変換器装置を覆い、電気的に非伝導であり、前記圧力変換器装置を前記第一チャンバー中に存在する流体から隔離しかつ流体圧力を前記圧力変換器装置に伝える流体圧応答媒体」と規定され、圧力変換器装置が流体圧応答媒体によって覆われることを定めているのであるから、圧力変換器装置は、第一チャンバー内において、「露出」の通常の意味である「むき出し」になってはいないことが明らかである。すなわち、物の発明である本願発明において、「第一チャンバーに露出した圧力変換器装置」とは、流体圧応答媒体によって覆われる形で第一チャンバー内に位置する圧力変換器装置を意味すると解するのが正当である。

以上の事実によれば、上記公報には、審決認定のとおり、「仕切体をハウジングに対してシールされた状態で固定し、圧力変換器装置を流体室に露出させて前記仕切体に固定すると共に該圧力変換器装置を流体圧応答媒体で覆う」技術が開示されていると認められ、同じく、審決の挙げる実願昭52-109024号(実開昭54-86965号)のマイクロフィルム(甲第7号証)、特開昭52-87076号公報(同第8号証)、特開昭54-29693号公報(同第9号証)にも、上記技術が開示されていると認められる。

したがって、審決の周知技術の認定に誤りはなく、審決が、この周知技術を引用例発明に適用し、相違点(1)に係る本願発明の構成とすることは、「当業者であれば容易に想到し得たことである」(審決書8頁6~7行)と判断したことに誤りはないといわなければならない。

原告は、引用例発明では、仕切板で区切り、流体と接触することのない部屋に圧力信号発信機を置く構成を採用することにより、感圧板、連結棒、カンチレバーを介して圧力を圧力信号発信機へ導くという複雑な構成と引換えに、流体と非接触であるという長所を得たのであるから、圧力信号発信機を流体室に置くことは、上記長所を捨てることになり、上記選択を無意味にする改造であり、当業者がこのような構造の変更をするはずがないから、引用例発明に上記周知技術を適用する技術的必然性はないと主張する。

しかしながら、引用例発明は、感圧板、連結棒、カンチレバーを介して圧力を圧力信号発信機へ導くという複雑な構成を採用することにより、圧力信号発信機を流体室に置かないという効果を得ているのに対して、上記周知技術は、圧力変換器装置を流体圧応答媒体で覆うことにより流体室である第1の圧力室に置くことを可能にし、連結棒、カンチレバーを不要にして、圧力変換器装置の構成を簡単にするという効果を得ているのであるから、上記各構成の長所、短所を勘案して、いずれの構成を採用するか決定することは、当業者のなすべき設計事項というべきであり、原告の上記主張は、上記周知技術と同じ構成である本願発明の相違点(1)に係る構成には技術的意義がないというに他ならず、失当である。

原告は、引用例発明の感圧板は流体と圧力信号発信機との接触を妨げる機能を有しないのに対し、本願発明の流体圧応答媒体は流体と圧力変換器装置との接触を妨げる機能を有する点で異なるものであって、圧力信号発信機と液体との接触を避けるという目的を、感圧板で圧力信号発信機を覆うことにより達成できることは当業者が容易に想到できるものではないと主張する。

しかしながら、本願発明のこの点は、上記のとおり、本願優先権主張日前すでに周知の技術であったのであるから、これを採用することに特段の妨げがあるものとは認められず、原告の主張は理由がなく、採用できない。

取消事由1は理由がない。

2  取消事由2(相違点(2)についての判断の誤り)について

引用例発明につき、上記のとおり周知技術を採用して、「仕切体をハウジングに対してシールされた状態で固定し、圧力変換器装置を流体室に露出させて前記仕切体に固定すると共に該圧力変換器装置を流体圧応答媒体によって覆う」構成とすれば、仕切体及び流体圧応答媒体を介して、流体と圧力変換器装置とが電気的に伝導するおそれが生ずることは明らかであり、この場合、流体と圧力変換器装置を離隔する部材である仕切体及び流体圧応答媒体を電気的に絶縁する部材で構成することは、当業者であれば当然考慮できる技術事項であることは明らかである。

原告は、絶縁を得るための可能な他の具体的構成との比較において容易推考性の判断をしなければならないと主張するが、本願発明の要旨には、仕切体については「絶縁本体」と、流体圧応答媒体については「電気的に非伝導性であり」とのみ規定され、これらの部材を電気的に非伝導性とすることだけが示され、それ以上に絶縁を得るための具体的構成につき規定するところがないうえ、2つのものを電気的に絶縁することが必要な場合に、その間に介在する部材を電気的絶縁性のものとすることは当業者であれば当然採用できる周知の技術事項であると認められるから、原告の上記主張は理由がない。

3  取消事由3(相違点(3)についての判断の誤り)について

機器本体部と配線部(コード)とを分離するために、機器本体部側に金属ピンのような電気伝導装置、及び該電気伝導装置と配線部の電気配線とが相互連絡できるように配線部のコネクターを機器本体部に保持するための結合装置を設けることは、電気器具のプラグとプラグ受けにみられるように極めてありふれた構成であり、本願優先権主張日前、周知の技術であることは、原告も認めるところである。

したがって、審決が、「引用例に記載の圧力検出器において、その電線を直接圧力信号発信機へ接続することに代えて、圧力信号発信機へ接続される電気伝導装置と、該電気伝導装置と相互連絡できる電線に覆蓋上で連結場所を設けるための覆蓋上の結合装置とを用いて、電線を圧力信号発信機へ接続するようになし、その際に、圧力信号発信機の位置に応じて該圧力信号発信機へ接続される電気伝導装置を仕切板を通って第二チャンバーへ達するようにすることは、当業者であれば容易に想到し得た」(審決書9頁4~14行)と判断したことに誤りはない。

原告は、本願発明において、相違点(3)に係る構成を採用したのは、もっぱら、圧力変換器アセンブリーを使い捨て可能とするためであり、これに対して、引用例発明は圧力検出器を使い捨てにするとの技術的課題は有していないから、引用例発明の圧力信号発信機に直接電気配線を接続するという製造が容易でコストの安い構成を、わざわざ製造が困難でかつコストのかかる構造に変えることが、当業者にとって容易に想到し得たことであるはずはないと主張する。

しかしながら、引用例(甲第5号証)に、「器体とデイスポーザブル透析器との着脱が極めて容易にできる」(同号証明細書7頁10~11行)と記載されているように、引用例発明は、その圧力検出器自体を使い捨てにするものではないが、透析器を使い捨てにすることが開示されており、感染の危険のある用途に用いられる医療用器具において、感染を防止するために使い捨てにするという課題自体は、本願優先権主張日前においても、当然のこととして当業者に認識されていたことは、当裁判所に顕著な事実である。

そして、引用例、特開昭55-101041号公報(乙第1号証)、実願昭56-48120号(実開昭57-160647号)のマイクロフィルム(同第2号証)、実公昭56-22885号公報(同第3号証)にみられるとおり、使い捨てにされる器具と器体とを分離可能とするという技術思想は、本願優先権主張日前、周知の事柄である。

したがって、引用例発明につき、器体から使い捨てにする部材を分離可能にし、そのために必要な改変を周知技術に従って加えることは、当業者であれば容易に想到できることであるから、原告の上記主張は理由がない。

なお、審決は、相違点(3)についての判断において上記周知事項を認定していないが、この周知事項は本願優先権主張日前の技術水準を示すためのものにすぎないから、これを被告が訴訟段階で主張し、また、裁判所がこれを認定することは、当然に許される事項である。

取消事由3は理由がない。

4  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 芝田俊文 裁判官 清水節)

平成4年審判第17667号

審決

アメリカ合衆国 イリノイ州、ディアフィールド ワン バックスダー パークウェイ(番地なし)

請求人 バックスター インターナショナル インコーポレーテッド

東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル331~340

代理人弁理士 浅村皓

東京都千代田区大手町2-2-1 新大手町ビル331~340

代理人弁理士 浅村肇

昭和59年特許願第86046号「圧力変換器アセンブリー」拒絶査定に対する審判事件(昭和59年11月26日出願公開、特開昭59-208432)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ.本願は、昭和59年4月27日(優先権主張1983年4月29日、米国)の出願であって、その発明の要旨は、補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲第1項に記載されたとおりの、

「流体の圧力を監視するための圧力変換器アセンブリーにおいて、

チャンバーを画成しそして該チャンバーと流体の流れで連絡する入口部分と出口部分とを有するハウジング、

該ハウジング内に分離された第一チャンバーおよび第二チャンバーを形成し、前記第一チャンバーが入口部分および出口部分と流体の流れで連絡するように前記チャンバー内部で前記ハウジングに対してシールされた絶縁本体、

該絶縁本体に固定されそして前記第一チャンバー内の流体の流体圧力を測定しかつ電気インパルスに変換するために前記第一チャンバーに露出した圧力変換器装置、

該圧力変換器装置を覆い、電気的に非伝導性であり、前記圧力変換器装置を前記第一チャンバー中に存在する流体から隔離しかつ流体圧力を前記圧力変換器装置に伝える流体圧応答媒体、前記第一チャンバーにおける前記圧力変換器装置と前記第二チャンバーとの間に電気的連絡を与えるため前記圧力変換器装置へ接続されそして絶縁本体を通って第二チャンバーへと達する電気伝導装置、および

該電気伝導装置と相互連絡できる電気配線に前記ハウジング上で連結場所を設けるための前記ハウジング上の結合装置、

を包含する圧力変換器アセンブリー。」

にあるものと認める。

Ⅱ.これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭50-172288号(実開昭52-84869号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイルム(昭和52年6月24日特許庁発行。以下、引用例という。)には、「本考案は人工腎臓装置の血液透析器に附加する透析液の圧力および温度検出器に関するものである。」(第1頁第15行~第17行)、「11は器体、12は中心部に貫通孔13を有し周縁部が器体11に緊密に螺合された仕切板で、その一側に感圧板14を備えて器体と共に流体室15を形成している。16は支持片17によって仕切板12に固着された圧力信号発信機で、カンチレバー18を備え、該カンチレバー18は先端部で感圧板14の中心と仕切板貫通孔13を貫く連結棒19によって連結され、感圧板14が受ける圧力を電気信号に変換する作用をする。」(第4頁第7行~第15行)、及び「21は覆蓋でその周壁の1個所を電線22が貫通し支持されている。電線22は圧力信号発信機、熱電感温素子の発生する各々の電気信号を監視装置に伝送する。23は器体11の側壁に設けた一方の透析液流通口をなすプラグ、24は器体背面に設けられた他方の透析液流通口でソケット構造を備えている。」(第4頁第19行~第5頁第5行)が図面とともに記載されている。

Ⅲ.そこで、本願発明と引用例に記載のものとを対比すると、引用例に記載の「人工腎臓装置用圧力検出器」、「透析液」、「一方の透析液流通口」、「他方の透析液流通口」、「器体及び覆蓋」、「流体室」、「カンチレバーを備えた圧力信号発信機」、「感圧板」、「電線」は、それぞれ本願発明における「圧力変換器アセンブリー」、「流体」、「入口部分」、「出口部分」、「ハウジング」、「第一チャンバー」、「圧力変換器装置」、「流体圧応答媒体」、「電気配線」に相当するものであるから、両者は、「流体の圧力を監視するための圧力変換器アセンブリーにおいて、チャンバーを画成しそして該チャンバーと流体の流れで連絡する入口部分と出口部分とを有するハウジング、該ハウジング内に分離された第一チャンバーおよび第二チャンバーを形成し、前記第一チャンバーが入口部分および出口部分と流体の流れで連絡するように前記チャンバー内部で前記ハウジングに対して取り付けられた仕切体、該仕切体に固定されそして前記第一チャンバー内の流体の流体圧力を測定しかつ電気インパルスに変換する圧力変換器装置、該圧力変換器装置を前記第一チャンバー中に存在する流体から隔離しかつ流体圧力を前記圧力変換器装置に伝える流体圧応答媒体、および前記圧力変換器装置へ電気配線を接続するための接続部、を包含する圧力変換器アセンブリー。」である点で一致し、次の点で相違している。

(1)本願発明では、仕切体がハウジングに対してシールされ、圧力変換器装置が第一チャンバーに露出した状態で前記仕切体に固定されると共に該圧力変換器装置が流体圧応答媒体によって覆われているのに対して、引用例に記載のものでは、仕切板が器体に緊密に螺合され、圧力信号発信機が第二チャンバーに収納された状態で前記仕切板に固定されると共に、前記圧力信号発信機のカンチレバーが感圧板の中心と仕切板貫通孔を貫く連結棒によって連結されている点。

(2)本願発明では、仕切体及び流体圧応答媒体が電気的に非伝導性の絶縁材で構成されているのに対して、引用例に記載のものでは、それらが何で構成されているのか不明である点。

(3)本願発明では、圧力変換器装置に接続されかつ絶縁本体を通って第二チャンバーへ達する電気伝導装置と、該電気伝導装置と相互連絡できる電気配線にハウジング上で連結場所を設けるためのハウジング上の結合装置とを用いて、電気配線が圧力変換器装置へ接続されるのに対して、引用例に記載のものでは、電線が直接圧力信号発信機へ接続される点。

Ⅳ.次に、前記の各相違点について検討する。

相違点(1)について、

仕切体をハウジングに対してシールされた状態で固定し、圧力変換器装置を流体室に露出させて前記仕切体に固定すると共に該圧力変換器装置を流体圧応答媒体によって覆うことは、当該技術分野において本願出願前周知の技術(例えば、特開昭52-138981号公報(特に第10図及び第11図に記載の実施例参照)、実願昭52-159024号(実開昭54-86965号)のマイクロフイルム、特開昭52-87076号公報、特開昭54-29693号公報参照)であるから、引用例に記載の圧力検出器において、その仕切板を器体に対してシールされた状態で固定し、圧力信号発信機を流体室に露出させて前記仕切板に固定すると共に該圧力信号発信機を感圧板によって覆うことは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

相違点(2)について、

仕切体及び流体圧応答媒体のように流体と接触する部材を通じて、流体と圧力変換器装置との間で電気伝導する場合、流体、圧力変換器装置等への影響を考えて電気的に絶縁することは、当業者であれば当然考慮すべきことであるから、引用例における仕切板及び感圧板を電気的な絶縁材で構成することは、当業者が必要に応じて適宜なし得た設計的事項にすぎない。

相違点(3)について、

機器本体部と配線部(コード)とを分離するために、機器本体部側に金属ピンのような電気伝導装置、及び該電気伝導装置と配線部の電気配線とが相互連絡できるように配線部のコネクターを機器本体部に保持するための結合装置を設けることは、例示するまでもなく電気機器において本願出願前周知の技術であるから、引用例に記載の圧力検出器において、その電線を直接圧力信号発信機へ接続することに代えて、圧力信号発信機へ接続される電気伝導装置と、該電気伝導装置と相互連絡できる電線に覆蓋上で連結場所を設けるための覆蓋上の結合装置とを用いて、電線を圧力信号発信機へ接続するようになし、その際に、圧力信号発信機の位置に応じて該圧力信号発信機へ接続される電気伝導装置を仕切板を通って第二チャンバーへ達するようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

なお、請求人は、本願発明では、シールされた第一チャンバー内に圧力変換器装置、流体圧応答媒体が設けられて構造を小さくすることができる旨主張しているが、特許請求の範囲に記載の「圧力変換器装置」は、引用例におけるカンチレバーを備えた圧力信号発信機も包含する広い概念の用語であり、このような圧力変換器装置を第一チャンバー内に設けたからといって、必ずしも構造が小さくなるとは限らず、請求人の主張は採用できない。

そうすると、本願発明の要旨とする構成によつてもたらされる効果は、引用例に記載されたもの及び本願出願前周知の技術から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

Ⅴ.したがって、本願発明は、引用例に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年9月24日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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